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2006年2月16日 (木)

絢爛たる影絵 小津安二郎

絢爛たる影絵―小津安二郎
絢爛たる影絵―小津安二郎 (新版)
高橋治 講談社 2003年

小津安二郎を知るのにこれ以上の本があるだろうか?
作家・高橋治が鮮やかに描く巨匠の光と影。
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小津安二郎の代表作、『東京物語』で助監督をつとめた作家・高橋治が伝説の巨匠の生涯を鮮やかに蘇らせたノンフィクション・ノベル。

カメラマン厚田雄春ほか、笠智衆や岸恵子、篠田正浩、大島渚など、生前の小津を知るゆかりの人々を訪ね歩き、多くの文献に基づきながらも、あくまでも高橋治自身の眼で見た小津、セットの空気を一緒に吸った小津を語る。

(Amazon.co.jp より)

めったやたらと面白かったです。
ページをめくる手が止まらなくて困るほど。
時間を忘れて読みふけりました。
小津ファン、映画ファン必読の書。

なんといっても、血の通った生身の人間としての
小津がみえてきます。

著者が小津と交わした会話や、当時の
小津の交友関係、さらには女性関係まで、
小津を間近で見てきたこの著者にしか書けない
エピソードばかり。
伝説の監督に対して、ここまで書いちゃっていいんでしょうか。

しかもその語り口は、さすがは直木賞作家というべきか、
ドラマティックかつスリリングで、
読んでいて全く飽きません。

正直ちょっと大げさじゃないの、という描写も
ありましたが、圧倒されました。

以下、引用はすべて文春文庫版より。

 その人には忘れられないという小津の言葉がある。
 「ある時、私がいったんです。……広い野原に一人で立ってて、風がひどいの。……黄色い落葉が私に吹きつけて来て、もう立っていられない。……夢なのよ。夢だとわかっているから、早くさめてくれと必死に祈るんだけどさめないのよ。……私がそういったら、……先生の言葉の抑揚が今でも忘れられないんだけど、……君、そんなことをいっちゃいけないよ。誰でも同じなんだ。……君一人じゃないんだ。……先生の眼が、とっても暗かったわ」(p.201)

す、すごい。
映画監督に対して言うことじゃないが、
映画のワンシーンみたいだ。

そしてさすがに映画監督出身の高橋治。
鋭く深い小津作品の分析も、実に読み応えがあります。

問題は一見愛を描くような顔をし続けた小津が、実は描きたかったのは絶望だと帳尻をしめたことなのである。小津流のいい方をすれば、愛で勘定は合う。だが、もう一度数え直して見ると、絶望という銭が余って来る。(p.163)

小津の他にも、同時代の監督たちや俳優たち、
多数の映画関係者たちが登場します。
当時の日本映画界の雰囲気がよくわかり、興味深いです。


 若き日の桑野通子が出征して行く小津を見送り、涙を拭うことも出来ずに立ちつくしたままだったのは有名な話である。この思うだに美しい話が、小津の手にかかるとこうなる。
 「桑野みゆきは俺の子じゃねえよ」
 始末が悪いのだ。(p.168)

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 「岸恵子は良いよ。身持が悪くって」
 小津は岸を評してそういったという。(p.242)

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 小津、溝口、世の中にこれほどあらゆることが好対照だった二人を探すことは至難のことだろう。大島渚は二人のことを外国で聞かれるとこう答えることにしている。
 「小津さんは自分の好みの中でしか仕事をしなかった。その上、好みを自分で知りぬいていた。だから幸福だったでしょう。しかし、溝口さんは一生自分がなにをやりたいのかもわからず、ただ、無茶苦茶に頑張った。苦しい一生だったと思います」
 すごい人物評である。小津、溝口の二人は大島のいう通り総てが逆に出来上がった人間だったが、現実には無二の友だった。(p.256)

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 田村は明言する。
 「原節子の相手をつとめた俳優は二度と小津作品に登場しないでしょう。でなければ裏話だけで姿を見せない。これは小津の嫉妬ですよ。それに、その方が夢があって良いじゃないですか。あれだけの美女だし、小津さんが死んだあとは誰にも姿を見せない。その点が見逃せませんね」(p.199)
  ※田村・・・田村孟

原節子との関係も気になるところ。

とにかく読みどころ満載なので、あとは
読んでみて、としかいえません。
ぜひ。おすすめです。


絢爛たる影絵―小津安二郎 文春文庫 (383‐1)
絢爛たる影絵―小津安二郎(新版・講談社)
絢爛たる影絵―小津安二郎(文藝春秋版)


絢爛たる影絵
絢爛たる影絵
posted with 簡単リンクくん at 2006. 2.17
高橋 治著
講談社 (2003.3)
通常2-3日以内に発送します。


小津安二郎と溝口健二(「映画収集狂」さん)

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コメント

なるほどー
先日ビデオで「麦秋」を見たんですが、「東京物語」の時もそうでしたが、原節子は小津さんの理想の女性像のような画きかたでした。下世話な感情ですが、原と小津なるほどと思わせます。

投稿: 詩音魔 | 2006年8月19日 (土) 22:41

詩音魔 さん、はじめまして。
コメントありがとうございます。

小津映画の原節子は本当に美しいですよね。
原節子にとっても、自分を一番良く撮ってくれるのが
小津監督だ、という想いがあったようです。
そんなこともこの本には書かれていましたよ。

また気軽にコメントしてくださいね。

投稿: ヒグマ | 2006年8月21日 (月) 01:20

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